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紙の月 実話のモデルは? [エピソード]


◆映画「紙の月」は、実話のモデルがあった!


映画「紙の月」での宮沢りえさんの評判が高まるにつれ、

世間の注目は「紙の月」がモデルにしている実話についての興味にも

移ってきている節がありますね。



ですので、今回は、非常に長文になりますが、

映画「紙の月」のネタ元、またモデルにもなった実話、

その事件を引き起こした女性像についての話を紹介しようと思います。



最後までどうぞお付き合いください。




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◆紙の月:実話事件とモデルになった女


ご存知のように映画「紙の月」は、角田光代さん原作小説を映像化した作品です。


そして、その小説は、

実際にニュースで報道された銀行横領事件の実話がベースになって書かれたそうです。



確かに、現実に起こった実話が

小説の骨格ベースにあるというのも頷ける実によく出来た作品で、

2012年には柴田錬三郎賞(第25回)を受賞していますから

お読みになった方も大勢いると思います。





参考までにあげると、今まで起きた有名な銀行横領事件としては、



①1973年(昭和48)の滋賀銀行9億円横領事件の奥村彰子


②1975年(昭和50)の足利銀行詐欺横領事件の大竹章子


③1981年(昭和56)の三和銀行詐欺横領事件の伊藤素子




この昭和の三大事件が、つとに有名な横領事件です。



いずれの場合も動機は『男に貢ぐため』

つまり、男を繋ぎ止めておくために起こした横領事件でした。




でも小説「紙の月」は、その女たちの『貢ぐ』という行為に違和感を憶えたのが、

角田光代さんが執筆するきっかけになったそうです。



つまり、男に翻弄され、乞われるままに金を貢ぐ女ではなく、

小説「紙の月」の主人公は『お金』というものを介在してでしか恋愛が出来ない女、

もっと言えば、『お金』という道具で男を翻弄する、

受身ではなく、能動的な女性像として描きたかったのだそうです。




さて、では、今から「紙の月」のモデルになった話を紹介していきますが、

その前に、簡単に映画のストーリーをおさらいしておきましょう。



■映画「紙の月』のストーリー


主人公の梅澤梨花(宮沢りえ)は、なに不自由のない生活をしている主婦。

会社員の夫(田辺誠一)との二人暮らし。

安定という繭の中に暮らしているといってもいい毎日だが、

夫は、すでに梨花に対してあまり興味を抱かないようになって久しい。



まあ、いわゆる「ごく平凡な主婦」と言っていい。



そんなある日のこと、

友人に子供が出来たことで心境の変化が起こり、

梨花はパートに出ることに決め、銀行の契約社員として外回りの仕事を始める。




わかば銀行に契約社員として勤務しはじめた梨花は、

渉外係として顧客を回り、雑用その他、いとわず手伝い始めた。




誰かに必要とされたい思う梨花にすれば、わかば銀行は居心地がよかったし、

丁寧な仕事ぶりが上司や顧客から評価されことでやりがいを感じ始めるが、

興味を抱いてくれない夫との間には空虚感が漂い始める・・・。





そんな折、顧客のひとりである平林(石橋蓮司)の孫・光太(池松壮亮)と出会う梨花。




大学生の光太には、ひとりの女性として認められて頼られ、

次第に喜びを感じる始めた梨花が

光太と逢瀬を重ねるようになるまで時間は掛からなかった。

なによりも、光太の真っすぐな思いに梨花は魅かれたのだと思った。




そんな中、顧客訪問からの帰り道、ふと立ち寄ったは、

ショッピングセンターの化粧品売り場だった。



(年下の光太に、少しでも良く思われたい・・・)



販売員に進められるままに化粧品を購入する事になった梨花だったが、

その時は充分な現金を持ち合わせていなかった。



(後で返せばいいか、1万円だけだもん・・・)



そう考えた梨花は、顧客からの預かり金の1万円に手を付けてしまう。


もちろん、その一時的に借りたお金は

自分の銀行口座から引き出して戻したが、

これがきっかけとなり、彼女の人生そのものが大きく動き始める・・・。





ある日のこと、梨花は、光太に借金があることを知った。




学費を払うため借金をしているという光太の言葉に気持ちを動かされ、

梨花は手持ちの200万(顧客からの預かり金)を渡してしまう。



ここから彼女が坂道を転げ落ちるように転落していくまでに、

そう時間は掛からなかった。




そんな時。夫の上海への2年間の転勤が決まる。

が、梨花はそれに同行することを拒んだ・・・。




そこから光太に会う頻度も増し、

彼女の給料の半分は、服と化粧品代に消えてゆくことに・・・。


同じ時期、顧客である老人から「お金が家にあると心配なの預かってほしい」と

梨花は通帳と印鑑を預けられる出来事があった。


既に、この時、彼女には善悪の判断すらどうでもいい状況だった。


500万円を着服し、光太と高級ホテルのスイートルームに連泊し、

それがために、偽造証書を作成するという狂気の世界。




そんな時、隅より子(小林聡美)が、不自然な書類が多いことに気づいた。




書類の作成者は・・・「梅澤梨花」だった。



悪に手を染めてゆけばゆくほど、梨花はどんどんと綺麗になってゆく。

そして気がつけば、銀行から横領した金の総額は1億円にも膨れ上がっていた。

不正が発覚する前に海外へ逃亡することに決める梨花。



果たして彼女は逃げ切れるのだろうか……?





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◆紙の月:実話事件とモデルになった女たち


さて、ここからは、

映画「紙の月」のネタ元になったであろう実話モデルについて

お送りして行きますので、どうぞご覧ください。


①1973年(昭和48)の滋賀銀行9億円横領事件の奥村彰子

②1975年(昭和50)の足利銀行詐欺横領事件の大竹章子

③1981年(昭和56)の三和銀行詐欺横領事件の伊藤素子



◆紙の月 実話モデル①「滋賀銀行9億円横領事件の奥村彰子」


[事件について]


事件が明るみに出たのは、

1973年(昭和48)10月21日のことだった。



滋賀銀行山科支店の行員・奥村彰子(当時42歳)が

業務上横領の容疑で逮捕された。

奥村は1973年2月までの過去6年間に、

およそ1300回の不正詐取を働き、9億円あまりの金を着服。


そのほとんどの金は、

10歳年下の元タクシー運転手・山県元次(当時32歳)に貢いでいたことが

その後の取り調べで明らかになった。


[転落の経緯]


■男との出会い


奥村彰子(当時35歳)が山県(当時25歳)に初めて出会ったのは、

1966年(昭和41)だった。



1966年の春、滋賀銀行北野支店から山科支店へ転勤となった預金係の奥村彰子は、

帰宅途中のバスの中で突然見知らぬ男に声をかけられる。



「あの、彰子さんではないですか?」



彰子は、その男のことを忘れていたが、声の調子で思い出した。

男は名前を、山県と名乗った。




彰子が山県と初めて出会ったのは、ちょうど一年くらい前のことで、

職場の懇親会でお酒を飲んだあと、拾ったタクシーの運転手が山県だったのだ。



彰子はタクシーの中で泣いていた。

当時つきあっていた男とのケンカが原因だ。

そんな彰子に優しい声をかけて来たのが、若い運転手の山県(25)だった。



二人は道々色んな話をして打ち解けはじめ、


「このままドライブしよう」


と誘ったのは彰子の方からだった。

酔って帰ったら、母親がうるさいからそう誘ったのだ。




そして、京都市内を三十分ほど走ったところで彰子は車を降り、

別れ際に「○○銀行の奥村彰子です」と嘘の銀行名を名乗って去った。

銀行名はとっさに嘘の名前を伝えたが、名前は本名を名乗った。



その事から、彰子の目には、山県が若くて素敵に映ったことがかすかに読み取れるし、

彼女のこれまでの生い立ちや育ち方にも関係しているようにも思える。




彰子は1930年(昭和5年)12月、大阪府北河内郡で生まれた。

3人姉妹の末っ子だった。


一家はその後、京都に移り、彰子も高校に通っていたが

1948年(昭和23)7月に退学している。


その理由は、父親が愛人をつくって家を出ていったからで、

男性不信になった母親が、男女共学に反対したのがきっかけだった。



その後、彼女は滋賀銀行京都支店に入行。

「男の人には負けたくない」と熱心に仕事にとりくんだ反面、

男性嫌いの母親のこともあってか、縁談などもなかなかまとまらなかったらしい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あの、彰子さんではないですか?」



帰宅途中のバスの中で、彰子は男に突然声をかけられた。

彰子は、その男のことを忘れていたが、声の調子で思い出した。

男は山県と名乗り、彰子を喫茶店に誘った。




山県の話は、とても面白かった。

小遣いがたくさんあるのでギャンブル負けても平気だとか、

とにかく景気のいい話とその語り口に、彰子は夢中になっていった。



そして、彰子は、銀行定期預金の募集期間だったこともあり

山県に「私の銀行に預金して貰えないか?」と頼んでみた。

そのことがきっかけで、二人は数回の食事デートを重ねた後、つき合うようになった。



このほんの些細なきっかけが、その後の彰子の転落人生の始まりだった・・・。



■貢ぐ女


それはこんな風に始まった。



「ボートをやる金がいる」



つき合って間もなく、山県は彰子に競艇の舟券を買う金を無心し始めたのだ。


彰子は、少額の無心に答えたが、その金額はどんどんと大きな額になっていく。

自分の貯蓄を切り崩して、山県の要求に応え続けたが、

それでは間に合わなくなっていった。



でも、35歳になって未だ独身の彰子には、

どうしても恋人の気持ちを繋ぎ止めておくだけの「金」が必要だった・・・。




山県の要求がエスカレートする中で、

彰子はバス会社を定年退職した男性を銀行の顧客として知り合った。

男性は彰子のことを女性として気に入っているようで、

彰子にアプローチするかのように何度も大金を定額預金に預けてにきた。



その気持ちを察した彰子は、男に気のある素振りをみせ、肉体関係まで持った。



定期預金を途中で解約すると言われたら、

流用している男性の金の件が明るみに出てしまうから

前もって手を打っておく必要があると感じたからだった。



そして、どんどんエスカレートする山県の無心のために、

彰子は預金証書の偽造、架空名義での預金引き出しなどを繰り返し、

その手口も次第に大胆になっていった。




1973年(昭和48)2月1日、

彰子は、山科支店から東山支店に移ることになった。


ついに悪事がバレると感じた彼女は、

下関にいた山県に電話で「睡眠薬を飲んで心中しよう」と言った。



が、山県は取り合わなかった。



数日後、銀行側が内部監査をはじめると、

発覚を恐れた彰子は失踪するが、

10月21日、偽名を使って大阪のアパートに潜伏していた奥村彰子は、

滋賀県警に逮捕された。



結局、その後の二人の供述から搾取した金は、8億9400万円にものぼり、

彰子はその途方もない巨額の金を1300回にわたって引き出していたことがわかった。



■公判


大津地裁の公判で、奥村には懲役8年、

山県に懲役10年を言い渡され刑が確定した。



彰子は逮捕されるまで、山県が独身であると信じ込んでいたが、

逮捕後、捜査員から「山県は妻子持ちである」と教えられて愕然としたという。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



昭和を代表する巨額横領事件の奥村彰子という人物。


その動機は『男に貢ぐため』

男を繋ぎ止めておくために起こした事件だと言えると思います。


まあ、平成と昭和の時代性もあり、

恋愛や結婚の価値観は、かなり様変わりしていることを差し引いても、

女性の芯になる部分に「男という名の鍵穴」が存在しているのは、

今も昔も変わらないのではないでしょうか?



■紙の月 実話モデル②「足利銀行詐欺横領事件の大竹章子」


[事件の概要]


1975年(昭和50年)7月20日

足利銀行栃木支店の貸付係・大竹章子(当時23歳)が

架空預金証書を使い、2億1000万円を引き出していたことが発覚。


栃木署は大谷を詐欺および横領容疑で逮捕した。

また、横領した金を貢いでいた石村こと阿部誠行(当時25歳)も

同容疑で全国指名手配し、逮捕に至る。



裁判では、阿部に詐欺・有価証券偽造・同行使罪で懲役8年。

大竹には、懲役3年6ヶ月の実刑が確定した。



[事件への経緯]



■出会い


足利銀行栃木支店の貸付係・大竹章子(当時21歳)は、

昭和48年夏、友人と東北旅行した際、

仙台に向かう新幹線の車中で、

「ゴルゴ13を追って旅をしている国際秘密諜報員・石村」と名乗る男(阿部誠行)と知り合った。



通常なら破天荒な話であると受け止められるだろうが、

章子はこの男の話の真偽など問わずに、ごく自然に男の話に応対した。



そして、知り合ってわずか10日後には結婚話を持ち出し

「国際秘密警察を抜けるために資金が必要だ」と話す男の融資に応え、

手始めに60万(父名義の預金)、次に70万(自分の預金)を章子は用立てている。



そして、3回目からは、いよいよ架空の貸し付けのねつ造に手を染めてしまう・・・。




でも、どうして、こんな荒唐無稽な話をする男のことを信じてしまったのか?




公判でも『なぜ、お金を渡したのかわからない』と章子は証言したようですが、

間違いなく石村(阿部)に好意を持っていたこと、また、一説には、

石村が「彼女のありのままの姿を彼が受け止めたからだろう」とする説もあるようです。



実は、章子は、幼い頃に人差し指の先をなくしたため、

銀行内部では云われのない差別を受けていたらしいのです。



でも、知り合った石村は、そのことについて特段うんぬんすることもなく、

ごく普通に章子に接したという証言がある。



つまり、最初の出会いから、こういう一種の安心感を心の奥で感じた章子は

石村との共犯関係を結ぶのに十分な印象を持ったと考えていいのではないでしょうか?



そして、章子は、味をしめた石村のエスカレートする要求に答えるために銀行の金に手をつけ、

2年にわたり、実に2億1000万円もの金を貢ぎ続けたのです。




ただ、その手口は実に幼稚で、

融資調査役の検印を隙を見て白地手形や伝票に捺して自宅に持ち帰り、

自ら金額と定期預金者名を書き込み、

職場が忙しい時を狙って現金化するというものだったそうです。




横領が発覚したのは「本店の抜打ち審査」で

本店監査人が帳簿を監査したところ、

次々と不審な担保貸付けの伝票が出てきたのが事件発覚の始まりだった。




一方、金を貢がせていた石村(阿部)は

貢がせた金で競馬情報会社やクラブを経営し、

愛人と派手な生活をおくっていたらしい。



そして、章子は逮捕された時も、

男の本当の名前や住所を知らない状態だったとか・・・。



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



一口に横領事件と言っても、実に奥が深いです。


男による詐欺が発端であったにせよ、

騙されるという受け身の関係性ではなく、

むしろ、大竹章子が積極的に『騙された』ように感じるのは気のせいでしょうか?



貢ぐという表面的には『男への奉仕』である行為が、

実は自分の心の中の足りない何かを補っている行為なのかも知れませんね。




映画「紙の月」でも、宮沢りえさん演じる梨花の心に巣くう

言葉では表現しがたい感情がスクリーンに映し出されている筈から是非見てみてください。



時代は変わっても、人間の感情は、

そう大きく変わるものではないのかも知れませんし、

うまく言葉では表現できないそんな感情が

実は「紙の月」というタイトルの正体なのではないでしょうか。




■紙の月 実話モデル③「三和銀行詐欺横領事件の伊藤素子 」



おそらく、この三和銀行詐欺横領事件の伊藤素子こそが、

映画「紙の月」の宮沢りえ演じる主人公・梅澤梨花のひな形ではないかと想像します。



当時は「三和銀行オンライン詐欺事件」と呼ばれ、

事件を起こした銀行員・伊藤素子(当時32歳)のその美貌と共に



「好きな人のためにやりました」



という言葉は流行語になるほど有名な事件でした。



その巨額横領事件が起こったのは、

1981年( 昭和56 )3月25日のこと。



伊藤は、朝9時の始業と同時に

三和銀行大阪茨木支店から東京・虎ノ門支店などにオンライン端末を使って

1億8万円を架空送金します。



その後、すぐに銀行を早退して 伊丹空港から羽田に向かい、

昼過ぎには都内支店で1億3千万円を現金化し

待ちかまえた共犯者に手渡して羽田発国際便でマニラに逃亡。




このあたりは、国外逃亡する「紙の月」を彷彿とさせる展開ですね。




そして、伊藤素子と「紙の月」の梅澤梨花に共通するキーワードは、

なんと言っても『金』でしょう。

また、その金を着服する動機であるのは男であることも、

また非常に共通している部分であると思います。




ただし、前にも書きましたが、

男を繋ぎ止めておくために起こした事件の『貢ぐ』という行為に違和感を憶えたのが、

角田光代さんが小説「紙の月」を書くきっかけになったそうですかから、

そこは決定的に違うと言っていいのかも知れません。




小説「紙の月」の主人公は

お金を介在してでしか恋愛が出来ない女、

ある意味、能動的に男にお金を使う女性像として描かれています。



つまり、この伊藤素子の事件とは、

主客が逆転している構図で描いたということだと思います。



女の都合で男を振り回す。

その道具として、お金が必要だった・・・という感じ。



あくまでも、女が主導で描いたのが「紙の月」の世界です。



■紙の月 実話モデル③「三和銀行詐欺横領事件の伊藤素子 」


伊藤素子という人物は、

実に『金』や『男』に関しては潔癖な女だったらしいです。



お金に関しては『家族でも金銭的には他人』と発言するほど

金に対する深い執着があったようです。

また、男の好みに関しても

『目が綺麗で長身、星の王子さまのような人』が理想だったそうですから、

この人物の性格がおおかた想像出来るのではないでしょうか?




そして、この性格が遠因となり横領事件が起こったと考える向きもあるようですが、

彼女の人生は、いや、男関係は、理想通りとは行かなかったようです。



伊藤素子が初めて男性と性交渉を持ったのは、二十歳の頃。

お相手は、銀行に出入るする会社のサラリーマンだったそうです。

ただ、半年後、彼には妻子がいる、

つまり、二人の関係は不倫関係であることを知ったというんですね。



けれど、伊藤は彼と別れることを選ばず、

その後、12年の長きに亘って関係を続けます。



その交際期間の間には二度の中絶も経験したらしいですし、

これはもう、どうにもならない恋なんです。

が、この時、伊藤がこだわったのは「処女性」だったそう。



つまり、初めて処女を許した相手と結ばれなければ(結婚できなければ)

もう二度と幸せな結婚なんて出来ないと考えた結果が、

12年にもわたる彼との腐れ縁に繋がったということ。



今では考えられないことですが、

昭和という時代に生きてきた女性の貞操感覚の一端を垣間みるような思いがします。



ただ、やはり時代は変われど、不倫と幸せが結びつかないのは世の常のようで、

心身ともにボロボロになった伊藤の前に現れたのが

事件の共犯者になる南敏之でした。




南にも妻子がいましたが

彼は最初から妻子がいることを公言し、

それでも尚、高級レストランで熱心に伊藤を口説いた。



それが彼女には「男らしい」と映ったのだそうですし、

南は長身でハンサム、しかも旅行代理店を経営し、服装もセンスがいいし金回りもいい。

おまけに身体を合わせると相性が抜群で、伊藤はすぐ南に夢中になったようです。




でも、表向きにお金持ちを演じていた南は、

実は代理店の経営に行き詰まり金策に駆けずりまわっているような状況だったことは

この後、すぐに伊藤の知るところとなります。




肉体関係を結んで二週間後。




南は10万円の借金を伊藤に無心しました。

そして、これが、この事件へ突き進むすべての始まりだったわけです・・・。




その後は、お決まりのパターンで、金の無心はどんどんエスカレートしていき、

遂に自分の預金ではまかない切れない状況になった頃、

南からオンライン詐欺を持ちかけられています。

伊藤はその申し出を頑に拒みますが、結局は脅迫までされ押し切られてしまいます。




でも、その要求を呑んだ理由は、

決して今後の甘い夢を見たからでも南の脅迫があったからでもなく、

『金』に執着する彼女自身の性格によるものが大きかったようです。



つまり、このまま南の要求を呑まずに別れてしまうようなことになれば、

それまで南に工面したお金は帰ってこないという事実が、

彼女の犯行の後押しになったのだそうです。



「好きな人のためにやりました」



この一見、美談にも取られかねない彼女の言葉が持つ、得も言えない語感は、

そんな彼女の、心奥ひだに絡み付いた叫びの声に繋がっているのかも知れません。



■紙の月と実話モデルについてのまとめ



いかがだったでしょうか?


3つの横領事件の女性たちのその素性を知って

あなたは、どんな感想をお持ちになったでしょうか?




事件は全て昭和という時代に起きたもので、

映画「紙の月」の時代設定である平成とは、

風俗も人々のモラルというものも、かなり違うとお思いになったかもしれません。



ただ、実話も映画「紙の月」も描いているのは「その時代を生きている女性」

という点ではなんら違いはありません。



そして、女性たちが心の奥深く、おそらく本人でさえ気づかない心の動きを

映画「紙の月」は描こうとしたのだろうと思います。



原作小説「紙の月」のラストでは、

タイに渡った梨花が警官にパスポートを見せる所で終わっています。

これが、彼女の顛末を語ったラストシーンでした。

つまり、主人公・梨花が捕まったのか、それとも逃げてしまったのかが

明確に提示されないまま終わりを迎えています。



そして、それは、映画も同じ手法を取っています。



その点が、この原作と映画の最も秀逸な理由でもあるのですが、

ラストの結末、結果を描かないことで描き出したのは、

結局、観客である「あなたの心の動き」だということです。



つまり、梨花という人物は、

自分の都合で、銀行の金を横領した女であるという一点で考えれば、

常識的には「許すことの出来ない女」の筈なんです。



でも、映画のストーリーに身を任せ、梨花の人生を追体験して行くうちに、

観客の中には「梨花にこのまま逃げおおせて欲しい」と感じる人が

必ずいるように思います。



悪事を犯していく度に、どんどんと綺麗になっていく梨花の姿。



映画や小説の結末は、描かなかったのではなく、

意図して描かないことで浮かび上がる、

あなたを始め、観客や読者の心模様を描きたかったのだろうと個人的には感じました。


そう考えると、

スクリーンの中の宮沢りえは、

本当は「あなた自身の姿」なのかもしれませんね・・・。



長文にお付き合い頂き、どうもありがとうございました。



⇒「紙の月」目次:まとめページはこちらをクリック♪




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